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Web版「田川ローカル」
安部慎一
2009年7月
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外来前夜、眠りが深かった。病院では、妻以外に肉声で話が出来る。しかも患者同士だから、話も合う。入院だけはしたくない。そのために酒を十一年前に止めた深井一郎である。素面で暴力を振るったことは一度もない。外来当日、彼は、朝七時に病院に着いた。しかし、二番目であった。車で送り迎えを妻の幸子がしてくれた。状態が良くないのか、医師は薬を一錠増やした。それを妻に云うと「残念ね」と悲しげに云った。いわゆる躁の状態であったようだと、彼は妻に云った。妻は「御免。私が話し相手になってやれなくて」と、笑った。入院歴五回の彼は、妻に土下座したい程に感謝した。彼はポケットから、青いハンカチを取り出し、顔に当て、涙を抑えた。精神病院外来患者、深井一郎は、丁度、夏のこの時期に妄想を持つことが多い。また、今年もか、と彼は思った。路面に目を移すと、赤い花が路肩に健気に生えていた。「綺麗な花だな」と、彼が云うと、妻は「本当ね」とチラリと路肩を見た。運転中の妻はよそ見が出来ない。だが、車を止め、その花を五本つんだ。「何という名前かしら」「深井幸子という名前じゃないか」彼はふと、思い出したように、外へ出てタバコを吸った。一郎と幸子という名前を、昔、漫画で見たと思った。「赤色エレジー」という作品だった。彼は昔、漫画を画いていた。しかし、頭がボーッとしてきて、「赤色エレジーの作者は誰だっけ」と妻に聞いた。妻は「知ってるけど、今のあなたには云えない」と、悲しげに笑った。「ずいぶん、悲しい半日だったな」と彼が嘆くと、妻は「赤色エレジーの作者の名前、本当に思い出せない?」と云った。「知っていたら教えてくれ」「林静一先生よ」妻は泣いた。彼も泣いた。「涙って面倒くさいな」と彼が云うと、妻は、「本当に色々な人が、あなたと私を助けてくれたわね」と泣き、涙は五本の花の上に、流れ落ちた。
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完
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安部慎一近況 | |
ここのところ過去世を追求していたが、病院に行ったところ「状態が悪いので即入院した方がいい」と云われ、薬を増やされた。入院はしたくないので、精神世界からは離れることにした。
7月4日より、渋谷で「美代子阿佐ケ谷気分」の映画が公開される。http://www.miyoko-asagaya.com/
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